コラム3

タワーマンションの分譲価格と相続税評価額

1.タワーマンションの分譲価格は上層階になればプレミアム価格が上乗せされる

都心部では不動産の再開発が進み、いたるところにタワーマンションが建設されています。このタワーマンションは一般的に上層階になればなるほどプレミアム価格が上乗せされ、分譲価格が高く設定されています。たとえば、2階北向きの部屋の分譲価格が3,000万円だとした場合、同じ間取りの30階南向きの部屋は高層階で眺望がいいいためプレミアム価格が上乗せされ分譲価格が8,000万円になるというようなことです。
では、相続や贈与を考えた場合これらの2物件の相続税評価額はどのように算定されるのでしょうか?

2.同じ間取りの2階北向きの部屋と30階南向きの部屋とでは相続税評価額は閉じ

普通は分譲価格が高いほうが評価額も高くなると考えてしまうかもしれません。しかし実は同じ間取りの2階北向きの部屋と30階南向きの部屋とでは、相続税評価額は同じ評価額になるのです。
どうしてそのようになるのかといいますと、マンションの分譲価格は近隣の専有面積あたりの単価を相場として設定され、階層の上下や部屋の向きなどの要素も価格に反映されますが、相続税評価額は、建物部分は専有部分と共有部分の面積を按分した自分の持分の「固定資産税評価額jを基に評価されるためです。固定資産税評価額は面積を基に算定されるのであり、上層階であるため上乗せされたプレミアム価格や部屋の向きなどの要素は相続税評価額にはまったく関係ないのです。(なお、一般的に相続税評価額は市場での価格に比べ低くなるように設定されています。)
したがって、2階北向きの部屋を3,000万円で購入しでも、30階南向きの部屋を8,000万円で購入しでも、仮に土地持分の評価と建物持分の固定資産税評価額による評価の合計が2,000万円だとした場合には、両物件とも同じ2,000万円で評価されることになります。
つまり8,000万円-3,000万円5,000万円のプレミアム価格は相続税評価の対象とはならず、プレミアム価格が上乗せされた上層階のマンションの購入は相続税の節税につながるといえます。

3.将来の申古不動産相場、流通性のある間取りと価格帯、物件の老朽化などの老慮も

プレミアム価格が大きければ大きいほど節税の効果は高くなりますが、将来物件を売却することを念頭に置いた場合、プレミアム価格は中古不動産相場の市況や経年による物件の老朽化などの影響を受けることを留意する必要があるでしょう。また、間取りや価格帯によっても物件の市場流通性は異なってきます。たとえば極端なケースですと10億円のワーンルームのような物件は一般的に流通性が高い物件とはいえないでしょう。
タワーマンションの節税方法は現在の節税効果だけではなく将来の財産価値や処分可能性を考慮にいれた総合的な判断が必要だといえそうです。

3-15 遺言の活用

遺言の作成方法と注意点を教えてください。

遺言には一般的に二種類あり、遺留分を侵害しないように作成する必要があります。

(1)遺言の種類

遺言の種類には一般的に公正証書遺言と自筆証書遺言の二つの方式があります。
≪1≫公正証書遺言
国の公的機関である公証人に作成してもらい、原本を公証人役場に保管してもらう形式の遺言です。法律の専門家である公証人に作成してもらうので、安全で確実です。ただし、遺言内容を秘密にできない、費用がかかるといった欠点があります。
≪2≫自筆証書遺言
遺言者が、遺言書の全文・氏名を自署し、押印することにより成立する遺言です。遺言者が一人で作成できるため、簡便で遺言の内容だけでなく作成したこと自体も秘密にすることができます。反面、法定の要式を欠くと無効になってしまったり、偽造がされやすいといった短所があります。

(2)遺留分

遺留分とは、遺産について相続人に保障されている最低限の権利です。これは、下の表のような割合で決まっています。遺言作成時にはこの遺留分を考慮、する必要があります。
遺留分を侵害するような遺言を作成してしまいますと、侵害された相続人から遺留分減殺請求を起こされてしまい、遺言が思い通り実行されないことがあります。

相続人 配偶者のみ 配偶者と子供 配偶者と父母 配偶者と兄弟姉妹 父母のみ
配偶者 子供 配偶者 配偶者 兄弟姉妹
相続分 1/2 1/2 2/3 1/3 3/4 1/4
遺留分 1/2 1/4 1/4 1/3 1/6 1/2 1/3

(3)遺言により行うことができる事項

.相続分の指定又はその指定の委託(遺留分に注意)
.遺産分割の方法の指定または指定の委託
.遺産分割の禁止(相続開始後5年以内の期間)
.遺言執行者の指定または指定の委託
.認知 など

3-14 贈与税の暦年課税

贈与税の暦年課税制度について教えてください。

暦年課税制度は、年間110万円までの非課税枠があり、110万円を超えると、超えた金額に対して累進課税で贈与税がかかります。

(1)暦年課税

その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額に対し、贈与税がかかります。1年間にもらった財産の合計が110万円以下であれば、贈与税を納める必要はありません。
1年間に複数の人から贈与を受けた場合、その贈与を受けた財産の価額の合計額から控除できる基礎控除額は贈与者の人数にかかわらず110万円となります。

(2)税率

税率は、平成26年12月31日までは1050%の6段階の超過累進税制になっています。平成27年1月1日以後は1055%の8段階になります。

(3)生前贈与加算と贈与税額控除

相続などにより財産を取得した人が、被相続人の死亡前3年以内に贈与を受けていた場合には、その贈与を受けた人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。また、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになります。

(4)メリット・デメリット

暦年課税の場合、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産は、相続財産から切り離されますので相続財産を減らすことができます。また、110万円の非課税枠を毎年使うことできますので時間をかければ節税効果があります。しかし、非課税枠が110万円なので、時間をかけて贈与していくことが必要になり、多くの財産を一度に贈与したい場合には税額が高くなるというデメリットがあります。

(5)贈与税の速算表

≪1≫平成26年12月31固までの贈与

課税価格(贈与税‐1,100,000円) 務機 控除額
200万円以下の金額 10%
300万円以下〃 15% 10万円
400万円以下〃 20% 25万円
600万円以下〃 30% 65万円
1,000万円以下〃 40% 125万円
1,000万円超の金額 50% 225万円

(例)贈与財産の価額の合計が200万円の場合贈与税額の計算(200万円-llO万円)×10%=9万円
贈与財産の価額の合計が500万円の場合
贈与税額の計算(500万円-llO万円)×20%-25万円53万円

≪2≫平成27年1月1日からの贈与
(i)20歳以上の子・孫への贈与

課税価格(贈与税‐1,100,000円) 税率 控除額
200万円以下の金額 10%
400万円以下〃 15% 10万円
600万円以下〃 20% 30万円
1,000万円以下〃 30% 90万円
1,500万円以下〃 40% 190万円
3,000万円以下〃 45% 265万円
4,500万円以下〃 50% 415万円
4,500万円超の金額 55% 640万円

(ii)一般の贈与

課税価格(贈与税‐1,100,000円) 殺事事 捜隊額
200万円以下の金額 10%
400万円以下〃 15% 10万円
600万円以下〃 20% 25万円
1,000万円以下〃 30% 65万円
1,500万円以下〃 40% 125万円
3,000万円以下〃 45% 175万円
4,500万円以下〃 50% 250万円
4,500万円超の金額 55% 400万円

3-13 配偶者への2,000万円贈与の特例

贈与税の負担がかからずに、妻に財産を移転するよい方法はないでしょうか。

配偶者への2,000万円贈与の特例を活用されてはいかがでしょうか。

(1)非課税で配偶者に贈与できるチャンスが一度だけある。

一生に一度だけ、配偶者に対して非課税で居住用不動産を贈与できる特例があります。
これは、ある一定の条件を満たす場合、配偶者に対して、居住用不動産を贈与しても、課税価格から2000万円を控除した上で、贈与税を計算することができるという特例です。ですから、贈与時の相続税評価額で、2,000万円(基礎控除を加えると2110万円) までの範囲であれば、贈与税はかかりません。

(2)配偶者への2,000万円贈与の特例の適用要件

≪1≫婚姻期間が20年以上であること。
≪2≫贈与する財産が居住用不動産、またはそれを購入するための資金であること。
≪3≫贈与を受けた翌年3月15日までに、その居住用不動産に住んでおり、その後も引き続き居住する見込みであること。
≪4≫同じ配偶者から過去に受けた贈与についてこの特例の適用を受けていないこと。
つまり、結婚後20年を経過すれば、相続税評価額ベ スで2,000万円(基礎控除を加えると2,110万円)までの範囲で自宅を贈与しても贈与税はかからず、将来の相続税の負担を減らすことができることになります。
03-13

(3)居住用不動産を譲渡する場合にもメリット

さらに居住用不動産を譲渡した場合、譲渡益から3000万円を控除できるという特例もあります。ですから、自宅の持分を夫から妻に贈与し、夫婦共有名義にしておけば、売却時には、夫と妻のそれぞれが譲渡益から3,000万円を控除でき、合計6,000万円を控除することが可能となります。

(4)相続対策としても有効

この配偶者への2,000万円贈与は、安全確実な相続税対策です。2,000万円贈与の特例を利用すれば、相続財産から居住用財産を分離でき、その分相続税の負担を軽減することが可能です。
結婚20周年の記念に、奥様に居住用財産の一部をプレゼントしてみてはいかがでしょうか。

3-12 賃貸不動産の売却による納税資金対策

資産の大部分は診療所、賃貸アパートなどの不動産です。相続対策として今のうちに売却、現金化しておいた方がよいでしょうか。

現金は評価減ができません。換金性の高い不動産で、最大限評価減をとることによって相続税対策を行い、相続発生時に売却または物納することを考えてみてください。

(1)処分可能な不動産の確保が納税資金対策になる

相続税は、一時に金銭で納付することを原則としているため、相続財産の大部分が不動産である場合には、不動産を処分しなければならないことになります。不動産がいくつもあり、どれかを処分すれば良いということであれば問題ないのですが、相続財産額の大部分が、医院と自宅だけであったら、売却するわけにはいきません。だからといって、相続税を納めない訳にもいかないのです。そこで、納税資金となる不動産を確保するためにも、残す財産と処分できる財産を区別しておくことが、必要となります。もちろん現金で残しておけば納税できますが、その分相続財産の評価額も大きくなり、納税額も多くなります。これに対して換金性の高い収益物件(賃貸用不動産)で評価減を最大限とれるものであれば、現金で残すより有利となります。

(2)不動産売却による相続税の納税

土地を売却して相続税を納税する場合、相続税の申告期限から3年以内に売却すれば、売却していない土地も含めて、相続した土地すべてに係る相続税を土地の売却益から控除できる特例があります。(相続税額の取得費加算の特例制度)
この特例を受けるためには、次の要件が必要です。
≪1≫相続または遺贈による財産取得
≪2≫相続税を支払っていること
≪3≫相続により取得した財産の売却
≪4≫その売却した時期が、相続税の申告期限の翌日から3年以内であること

03-12

(3)物納の選択は慎重に

相続税は金銭一時納付が原則ですので相続人固有の預貯金等も現金納付に充てられ、さらに延納に充てられる金額も考慮、した上で物納の選択が可能になります。安易に物納を選択できませんので、注意してください。なお、相続税の支払いを物納で行うためには、次の点をよく検討する必要があります。
≪1≫当該土地の売却価額(時価)は、相続税評価額と比較して高いかどうか
≪2≫売却後の手取額で売却と物納を比較しているか(売却した場合、(2)の相続税額の取得費加算の特例制度を考慮、して手取額を計算します。物納の場合、譲渡所得税は非課税となるので、相続税評価額がそのまま物納価額となります。)
≪3≫当該土地は物納の条件を満たしているか(管理や処分するのに不適当な土地は物納することができませんので注意が必要です。)
≪3≫相続税の申告期限から3年以内の売却等、相続税の取得費加算の特例制度の要件を満たしているか

3-11 賃貸不動産の活用による納税資金対策

納税資金が不足なのでやむを得す銀行借入を考えています。担保としては相続した賃貸ビルがあります。
借入以外の方法もあるのでしょうか。

法人に賃貸ビルを一括貸しし、保証金を納税資金に充当する方法があります。個人の銀行借入の利息は経費となりませんが、法人は借入金の利息、が経費となります。

(1)相続税を納付するために個人で借りた借入金の利息は経費にならない

相続財産に現預金が少なく、不動産の割合が多い場合には、当然納税資金は不足することになります。この場合には、不動産を担保にして銀行からの借入金で相続税を納付するか、あるいは、相続税の延納を申請し、分割払いを選択することになります。
しかし、銀行からの借入をすれば、利息を支払わなければなりません。
また、延納にしても、利子税を支払う必要があります。この利息や利子税は、経費として取扱われませんので、個人の収入から相続税等を支払った手取りから生活費のほかに利息も支払わなくてはならないことになります。
借入金が無利息になるか、あるいは利子が経費として認められれば個人の負担は、大幅に軽減されるはずです。

(2)保証金を設定する

通常のテナントビルを入居者に賃貸する場合、保証金を預り、退去時に預った保証金を返還します。この場合の保証金と賃貸料の関係は、保証金を高く設定すれば賃貸料は安くなり、保証金を安く設定すれば賃貸料は高くなるというように密接な相関関係にあります。そこで、相続により取得した賃貸用不動産を、管理する管理会社を設立するか、あるいは既に設立しである法人ヘ一括で貸し付けすることにします。この場合の保証金は高めに設定し、賃貸料を安くします。法人は、保証金を支払うために銀行から借入をし、その返済は第三者(テナント入居者)からの賃貸収入を充当します。個人としては、法人から預った保証金を納税資金にあてることができます。また、オナ会社のため、保証金の返済の心配もないことになります。

保証金による納税資金対策のしくみ

03-11

(3)保証金を支払うために借入れた借入金の利息は法人の経費となる

法人は、個人から安く賃借した建物を第三者に高めに賃貸することにより、賃貸料収入を得ることができるので、この賃貸料を借入金の返済に充当することができます。したがって、個人(不動産所有者)へ保証金を支払うために借入れた借入金の利息も当然法人の経費となり、法人の利益の圧縮にもつながることになります。個人で相続税を納税するために借入れをすると、納税はできたとしても、その後の借入金の元金及び利息の返済は、かなりの負担となりますが、保証金を活用すると、個人の借入金が法人ヘ転嫁されることになり、納税資金が確保されることになるのです。

3-10 生命保険の活用(2) 相続対策と生命保険

いざという時の納税資金対策は、どのようにした良いでしょう。

相続の発生と同時に現金で支払われる生命保険の保険金を、納税資金として利用するのも一つの方法です。

(1)身近で大きな問題、相続税の納税資金

相続税は、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内に金銭一括納付をすることが原則になっていますので、相続人は、相続した財産または相続人自身の財産で納税資金を捻出しなければなりません。
そこで、相続が発生するとすぐに現金で支払われる死亡保険金は、相続税の納税資金にうってつけです。

(2)A院長のケース

A院長は、50歳前半の若さで亡くなりました。財産は、自宅と定期預金5,000万円です。自宅の相続税評価額は、5億円とします。相続人は、奥さんと子供2人ですと、相続税額は6,850万円にもなります。納税資金は、定期預金5,000万円しかありません。不足額については、借金をして支払うとか、延納制度の適用をうけて、原則として年利3.66%(相続財産の状況や基準金利により異なります)の利子税を払いながら年賦で支払うことになります。

(3)B院長のケース

B院長の場合、A院長と異なり定期預金5,000万円はありませんが、生命保険1億2,000万円に加入していました。相続財産の評価額が、A院長に比べ5,500万円多いため、相続税額も7,950万円となります。しかし、納税資金は生命保険金の1億2,000万円で充当でき、かつ、4,050万円手許に残すことができました。

生命保険を納税資金として利用する

(妻1人子供2人の場合)

A 院 長 B 院 長
相続発生時点の資産 自宅 5億円 5億円
預金 5,000万円
生命保険金 12,000万円
生命保険非課税 ▲1,500万円
合計 55,000万円 60,500万円
※相続税 6,850万円 7,950万円
納税と収支 預 金 5,000万円
受取生命保険金 12,000万円
相 続 税 ▲6,850万円 ▲7,950万円
差引収支 ▲1,850万円 4,050万円

※配偶者1/2軽減適用

このように、生命保険加入により、納税資金には、十分足りる金融資産を確保したことになります。
今後、いかに相続税を払うかが大問題となってきますが、簡単に現金化できる生命保険を最大限に利用するのもひとつの方法です。

3-9 生命保険の活用(1) 生命保険の基礎知識

生命保険の受取保険金にかかる税金の種類について教えてください。

右の図のように契約の仕方によって受取保険金にかかる税金は3種類に分類されます。

(1)保険金を妻(または子供)が受取り、非課税枠を使って相続税を支払うケース

院長が自分に保険を掛け、自分で保険料を支払い、死亡保険金の受取人を妻または子供等の相続人にする場合です。院長が生存中に保険料を支払い、保険金は相続人が受取るため、死亡保険金にかかる税金は相続税の対象となります。相続税の対象となる死亡保険金の場合、一定の非課税金額が定められています。

非課税金額=法定相続人の数×500万円

たとえば、死亡保険金5,000万円で相続人が3人であれば、5,000万円-1,500万円3,500万円が相続税の対象となるわけです。したがって、相続人が受けとる死亡保険金にはたいへんメリットがあります。

(2)子供を保険金の受取人とし妻が保険料を支払い、贈与税を支払うケース

院長が被保険者となり、妻が保険契約者となり、死亡保険金の受取りを子供にする場合です。妻が保険料を支払い、子供が死亡保険金をもらうもので、言いかえれば、院長の死亡に備え、妻が子供のために加入するといえますから、この死亡保険金にかかる税金は贈与税の対象となります。
この場合の贈与税は、受取保険金から贈与税の基礎控除額110万円を差し引いた額が、全額課税の対象となり、かつ贈与税は税率が高いので、税金を多額に納めることになります。したがって、このような契約になっている場合は、死亡保険金の受取人を早急に妻に変更したほうが良いでしょう。妻が受取る死亡保険金は、(3)のケースで説明するように、妻の所得税の対象となり、贈与税より税負担は軽減されます。

生命保険金に対する税金のしくみ

(被保険者死亡の場合)

被保険者 保険料負担者 受取人 課税関係 相続対策上の
メリット
(1)院長 院長 妻(子) 妻(子)に相続税
(2)院長 子に贈与税 X
(3)院長 妻に所得税(一時所得)

課税判断のポイント
(1)誰が保険料を支払うか
(2)誰が保険金(解約金)をもらうかが課税判断の基準となります。契約者名義が誰であるかは課税判断には関係ありません。

(3)妻が保険金の受取人となり、一時所得として課税されるケース

院長が被保険者ですが、妻が保険料を支払い、かつ死亡保険金の受取人も妻にするケースです。院長が死亡することにより死亡保険金は妻に支払われますが、この保険金にかかる税金は所得税の対象となり、一時所得として課税されます。
一時所得としての受取保険金に対する計算方法は、次のようになります。

所得金額 (受取保険金一払込保険料-50万円)×1/2

すなわち、受け取った保険金から支払った保険料を差し引き、その利益金から50万円を控除し、その残額の2分の1が所得金額となります。
以上、3つのケスに分けて説明しました。私たちは日ごろ生命保険に加入する際に、あまり深く考えずに契約していますが、思わぬところに落とし穴があり、多額の税金を払うことにもなりかねません。念のため、現在契約している生命保険について、再検討してみてはいかがでしょうか。

3-8 相当の地代方式の見直し

相当の地代方式の見直しについて教えてください。

(1)今までに移転した借地権と底地部分を交換します。
(2)相当の地代方式をとりやめ賃借部分について、新賃貸借契約を結びます。

(1)相当の地代方式の内容

個人所有の土地に会社が建物を建設する場合には、通常借地権に相当する権利金の支払をします。
その権利金の支払いにかえて、相当の地代を支払うことを相当の地代方式といいます。そこで、個人が所有する土地に医療法人が建物を建てた場合に、法人が個人に対して権利金のかわりに地代を支払うことで相続対策を行うことができます。
相当の地代というのは、土地の更地価格の概ね年6%以上の地代をいい、実務上の運用としては、更地価格は相続税評価額で計算してもよいこととされ、しかも過去3年間の平均額を使用しでもよいこととされています。
この相当の地代方式には、地代を3年に一度改定する方式と据え置く方式があります。3年に一度改定する方式では、土地価格の上昇に応じて地代も改定されるため、含み益部分が法人に移転することはありませんが、地代を据え置く方式によれば、土地価格の上昇に応じて含み益部分が借地権として法人に移転していくことになります。これを自然発生借地権といいます。
一方、地代を据え置く方式によりますと、逆に土地価格が下がった場合には、法人から個人に「高い地代」が支払われることになり、個人は高い所得税・住民税を負担することになります。
03-08

(2)相当の地代方式の見直し

法人に移転した自然発生借地権と個人の底地権の等価交換をします(法人借地権の移転率を計算し、次にその割合で等価交換をします)。残った個人所有の土地について、無償返還の届出等をして、(相当の地代にくらべて低い賃料で済む)新賃貸借関係を結びます。これにより、個人側の税負担が軽くなることになります。

3-7 MS(メディカル・サービス)法人の設立対策

MS法人の活用による相続対策について教えてください。

(1)メデイカル・サービス法人(MS法人)は、医業関連業務の代行会社としての有用性があります。
(2)MS法人は、医業外業務についても業務を行うことができます。

(1)MS(メデイカル・サービス)法人の業務内容

MS法人は、医療法人とは異なり、一般の法人ですから、医療関連業務はもとより、その他の業務についても行うことができます。
個人開設の場合には、その医業経費の内容のうち、とりまとめて処理したほうが有効な業務について、MS法人に業務委託することになります。
たとえば、医業用消耗品、材料の比率が高い診療所等にあっては、MS法人でそれらの材料等を一括購入することによって、集中購買による利益を生み出すことができ、または、機械設備投資が多額の診療所等にあっては、MS法人が機械のリース事業を行うことにより、設備投資支出を平均化することもできます。
このような業務により、生み出されたMS法人の付加価値はMS法人の利益になることにより、結果的に個人所得がMS法人に移転していくことになります。また、MS法人は医療以外の業務も行えるため、個人医業以外の不動産の管理等、資産管理会社的役割を担う場合もあります。さらに、MS法人に利益蓄積がされて財務体力がついた場合には、個人資産の買い取りを行う受皿にもなり得ます。

(2)MS法人の相続対策

MS法人を相続対策の観点から考えた場合には、個人資産の管理、および資産の移転先としての意昧が強くなります。資産の買い取りの場合には、MS法人の財務体力によりますが、個人所有であった医療用資産を買い取って賃貸方式に転換する方法や、医療法人では買い取りが困難となる個人の賃貸不動産についても、MS法人において買い取れる場合があります。
MS法人の活用については、第1に医業関連業務をMS法人に移管して、財務体力を蓄えた後に、個人資産の買い取りへと進むことが、より効果的な相続対策となります。
また、将来の相続を見据えて、MS法人の出資者をご子息などにすることで、MS法人の株式を院長の相続財産としないようにすることも相続対策のひとつといえます。

MS法人の設立対策

03-07

3-6 医療法人の設立対策

相続対策としての医療法人設立について教えてください。

(1)後継者が出資持分を多く持つ持分の定めのある医療法人・出資額限度法人が設立されている場合、医業用資産を法人に移転することが重要です。
(2)平成19年4月1日以後設立される医療法人(基金拠出裂法人)の場合は、法人に資金・資産が蓄積されでも相続財産は増加しません。

(1)医療法人の設立と相続対策

医療法人の制度は、医業の継続性を前提とした制度です。そこで相続対策の観点からは、後継者の決定が前提としてあり、そのうえで、医業の継続について検討していくことになります。
個人開設の場合には、個人のすべての収入・支出が個人に帰属し、医業所得に対しての所得税差し引き後の資金の蓄積分、および医業資産も含んだ個人資産・負債のすべてが相続財産となり、将来の相続税の対象となります。
これに対して、医療法人の場合には医業収入・支出は医療法人に帰属し、設立時の資産、負債および設立後に発生する医業利益は、医療法人の所有となります。院長に対しての理事長報酬を支払った後の利益について法人税が課税され、税引後の資金は医療法人に蓄積されます。その蓄積された資金により、医療用資産の購入がなされることになります。
この医療法人の資産、負債については、持分の定めのある医療法人・出資額限度法人の場合、医療法人の出資持分を個人が所有することによる間接所有となります。したがって、個人財産としては、医療法人の出資持分が財産ということになります。
また、平成19年4月1日以後設立が強制される基金拠出型法人は、持分の定めのない医療法人となりますので、従来の医療法人とは相続税への影響が異なります。

(2)持分の定めのある医療法人・出資額限度法人の出資持分の所有者

医療法人の資産は、その出資持分により間接所有されることとなります。したがって将来の相続を考えると、できるだけより多くの出資持分を後継者が所有することがポイントとなります。ですから、出資持分の評価引き下げを行い、順次後継者に移転していくことが重要です。
医療法人の出資持分の移転が完了した後には、可能なかぎり医業資産は医療法人に移転し、個人資産の組み替えを図ることが重要です。

(3)基金拠出型法人の拠出金の所有者

基金拠出型法人の場合、拠出された基金しか払い戻しがされない形態ですので、拠出金だけが相続財産であり、医療法人に資金・資産が蓄積しでも相続財産は増えないと考えられます。ただし、法人が解散した場合には、蓄積した資金等は固などヘ帰属することとなりますので、注意が必要です。

医療法人の設立対策

03-06

3-5 賃貸不動産の購入

賃貸用不動産を購入すると相続対策になりますか。

不動産の実際の売買価格より相続税評価額の方が低いため、不動産を購入すれば、借入金と相続税評価額との差額相当額だけ、全体の相続財産を引下げる効果があります。

(1)時価と相続税評価額とは必ずしも一致しない

相続財産の評価額は、種類により評価方法が異なり、結果として、実際の価値と、相続税評価額が必ずしも一致しません。
たとえば、現金は、実際の価額がそのまま評価額になりますが、賃貸用不動産の評価は各種評価減の規定があるために、現実には購入価額より相続税評価額が低くなります。

(2)賃貸用不動産の購入で、相続税評価額を下げる

たとえば、現金預金10億円所有しているケースと、現金預金残6億円(3億円分を土地の購入そして1億円を建物の購入にあてた)、土地3億円分(購入価額時価路線価とします)、建物1億円分を所有しているケースを比べます。
→土地建物は貸付用に利用
現金預金10億円所有のケスは、相続税の評価額はそのまま、10億円になります。しかし、後者のケースでは、
03-05-01
03-05-02
※建物の固定資産税評価額は取得価額の60%として計算してあります。

よって評価額は、10億円から8.79億円つまり1.21億円の減額になります。このケースは自己資金を使用していますが、借入をしても同じ効果が生まれます。
03-05-03

3-4 土地の利用形態の変更

自宅の敷地の一部に貸家を建てようと思いますが、相続対策になるものがあれば教えてください。

宅地は利用単位となる一区画の宅地ごとによって評価をします。ですから、敷地の利用の仕方によっては、相続税法上の土地の評価を下げることができます。

(1)宅地の評価単位

宅地は、利用の単位となる一区画の宅地ごとに評価します。必ずしも一筆ごとに評価するのではありません。
03-04-01

(2)自宅の敷地に貸家を建てる場合の評価

(イ)現況(全面積が自用とされかつ、路線価は二方路線の影響をうけ高くなります)
03-04-02

(ロ)路線価の低い方に貸家を建てるケース
03-04-03
03-04-04

(ハ)路線価の高い方に貸家を建てるケース
03-04-05

※小規模宅地等の評価減は考慮しておりません。

03-04-06
前提条件 ◎ 奥行補正率20m、l0mともに1.00
      ◎ 二方路線加算率 0.03
      ◎ 借地権割合 0.7
      ◎ 借家権割合 0.3
      ◎ 自宅の建付面積貸家の建付面積

このように、建て方によって評価が異なってきます。また以下のようにしても、形が縦長になる等で、評価方法は変わってきます。
03-04-07
しかし、自宅の敷地に貸家を建てる等については相続税評価のみならず、その利便性、日当り等も考慮する必要がでてきます。

3-3 医院の建設

現在更地の土地に医院を建てる場合、名義は誰にするのが有利ですか。

院長の名義で医院を建設すると、土地の相続税評価額を現在の5分の1にまで引き下げることができます。

(1)医院を建てると土地の評価額は大幅に下がる

医院を建設することによって、土地の評価額がどのように下がっていくかをまとめたのが右の表です。
現在院長が所有している土地は、更地のままで何も利用していない状態ですので、土地の評価額は「路線価×地積=150万円×400平方メートル=6億円」となり、相続税評価額としては、最も高い評価になっています。この場合、相続人を子供1人と仮定して、改正後の相続税を試算すると2億4,000万円もの相続税を納付しなければならないことになります。
そこで、この土地に、借入金2億円で院長名義の医院を建設し、医院として事業を開始した場合には、院長の土地は事業用の土地ということになり、相続でその土地を取得した親族が相続税の申告期限までにその事業を承継し、申告期限までその事業を営むことを条件に、「特定事業用の小規模宅地の評価減」の適用を受けることができます。(1-5参照)小規模宅地の評価減では、特定事業用の土地のうち400ばまでについては、更地評価額の80%の評価減が可能となりますので、土地の評価額は、更地の時の評価額の2割ですみます。
したがって、更地の評価額「6億円Jから小規模宅地の評価減「6億円×80%=4億8,000万円」を差し引いた1億2,000万円が、医院を建設した場合の評価額となります。この場合も同様に改正後の相続税を試算すると、納税額は40万円となり、医院を建設することによって、納めるべき相続税が2億3,960万円も少なくなるので、相続対策として大きな効果を得ることができます。

特定事業用小規模宅地の評価減による節税の一例

[前提条件]路線価150万円/平方メートル 地積400平方メートル

  現状(更地) 特定事業用宅地
更地の評価額小規 6億円 6億円
小規模宅地の評価減 ▲4億8,000万円
建物の評価額 1億2,000万円
借入金 ▲2億円
相続財産の合計 6億円 4,000万円
相続税額 2億4,000万円 40万円
節税効果 ▲2億3,960万円

(2)ご子息名義で医院を建築する場合

ご子息が医院を建築した場合にも、一定の場合には(1)と同様に80%の評価減を取ることができます。
例えば、院長の所有している土地に次期後継者を予定しているご子息が医院を建築して無償で貸して、院長の事業の用に供している場合においては、≪1≫相続でそのご子息が院長の事業を相続税の申告期限までに承継し、かつ営んでいること、≪2≫申告期限までに土地を保有していること、を要件に、更地評価額の80%の評価減が可能となります。
ただし、このような場合、ご子息に建設費が負担できるだけの経済力があることを証明し、資金の出所を明確にしておくことが重要となります。
03-03

3-2 相続対策の考え方と進め方

医療相続対策の考え方、進め方について教えてください。

(1)医療相続対策は、後継者の決去と相続対策の実行が重要です。
(2)相続対策は、財産評価引下げ→移転→納税資金対策という順序で進めます。

(1)後継者の決定

医療相続を考える場合、後継者の決定が重要です。
医業については、原則としてその後継者は医師・歯科医師に限られます。個人開設の場合には院長、医療法人開設の場合には医療法人の理事長となるわけですが、現行の制度上は、原則として医師・歯科医師であることが条件です。したがって、他の業種以上に医業の場合には、後継者の決定が重要となります。

(2)相続対策の進め方

相続対策は、3つのポイントがあります。
第1は、財産評価引き下げ対策です。
現状の財産構成の組み替え、利用形態の変更等を実行しながら、全体の財産評価引き下げを図ります。
第2は、財産移転対策です。
将来、評価アップが見込まれる資産についての生前贈与や、医療法人出資持分の贈与、個人資産の売却等により、相続人への移転を図ります。
第3は、納税資金対策です。
相続税の支払が可能になるように、現金預金への資産の一部組み替え、または、生命保険の活用による納税資金対策等により、納税資金の準備をすることです。
03-02
以上の3つのポイントを検討することにより、バランスのとれた医業相続対策となります。
また、対策を実施する場合には、経済・金融環境及び税制に留意しながら進めることが必要です。その点から対策実行についてのタイミングの決定が重要となります。

(3)対策実行後のフォローアップ

相続対策について、計画通り実行された場合にあっても、その後のフォローアップが重要となります。
特に、最近の相続税制の改正を考えますと、対策実行後、相続対策の見直し、フォローアップに留意することが重要です。

3-1 医療法人の相続

医療法人の相続について教えてください。

(1)医療法人の所有する土地・建物・医療設備等は、法入所有財産です。
(2)相続の対象となるのは、医療法人の出資持分になります。(平成19年4月以降設立法人は基金となります。)

(1)個人事業の場合の医療相続

個人で、診療所・病院を開設されている場合には、医療財産も、その他個人財産も、相続税の課税対象となります。
したがって、医療財産については、医業を後継する相続人が引継ぎ、その他個人財産については通常の相続によるということになります。
この場合に、納税のために医療財産の一部(診療所の土地・建物等)を売却しなければならないような場合には、後継者の方が医療を継続する場合の障害となります。

(2)医療法人の場合の医療相続

医療法人で診療所・病院を開設されている場合には、医療財産は法人所有ですから、相続の対象となるのは持分の定めのある医療法人の出資持分とその他個人財産ということになります。
≪1≫持分の定めのある医療法人
一般の会社の株式に相当するものですから、その全額が相続の対象となるのではなく、被相続人の持分だけです。医療法人の出資持分について、相続税の規定により評価し、持分割合を乗じた金額が相続税の対象となります。一般的には、設立後の年数が長期となっており、医療法人の所有する土地等の含み益が多額な場合や、利益の蓄積が多額な場合には、出資持分の評価が高額になるので注意が必要です。また、将来の相続を考えた場合には、医療法人の出資持分について、早期に後継者に移転するなどの検討が必要でしょう。
≪2≫持分の定めのない医療法人(基金拠出型法人)
基金の所有者に相続が起こった場合の具体的な評価の方法は示されていません。しかし、基金は財産の種類としては債権ですから、基金は元本の価額で評価します。
なお、持分の定めのある医療法人から基金拠出型法人への移行に際しては、個人に対してはみなし配当課税が、医療法人に対しては贈与税又は相続税が課税される場合があります。

持分の定めのある医療法人については毎年蓄積される利益が出資持分に反映され、相続税の課税対象が大きくなることが多いことから、将来の相続を見据え、長期的な対策が必要となります。

[対策]
→出資持分の評価の引下げを図る
→早期に後継者に出資持分の移転を図る
→納税資金の確保を図る