コラム4

相続税の役割

世界には相続税がかからない国があります。オーストラリア、スイス、香港、マレ ーシア、シンガポールなどです。高額な財産を消費し景気を活性化させていくという考えから相続税をOにしているのです。景気が、活性化されますと、所得税や消費税も壇え結果的に税収が増えるのです。

日本の相続税は、相続財産が多いほど税率が高くなる累進税率になっています。日本の最高税率は現在50%で、平成27年以降は55%になります。最高税率が70%だった平成14年までと比べると税率は低くなったとはいえ、半分以上は税金がかかってきます。
ところで、財産が親から子等へ移るだけにもかかわらず、どうして相続税がかかるので、しよう。これについてはいろいろな意見がありますが、代表的なものは次のこつです。

(1)所得税の補完機能

被相続人が生前において受けた社会及び経済上の要請に基づく税制上の特典、その他による負担の軽減などにより蓄積した財産を相続開始の時点で精算する、いわば所得税を補完する機能

(2)富の集中排除機能

相続により相続人等が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収することで、相続した者としなかった者との間の負担の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制機能

では、海外に移住したら相続税を払わずに済のでは、と考える方もいらっしゃいますが、海外に移住したとしても一定の条件を満たさなければ日本で相続税を払わなくてはいけません。

4-12 出資持分の移転

出資持分の移転について、その方法と留意点を教えてください。

(1)出資持分の移転については、だれに移転するか、どのように移転するかが重要です。
(2)持分の定めのある医療法人の出資持分を移転する場合には、移転の舗額算定が重要です。

(1)移転方法とその留意点

医療法人の出資持分については、配当が禁止されており、かつ議決権も一人一議決権の為、経営支配権によるメリットはありません。
ただし、医療法人の経営上の責任者である理事長については、原則として医師・歯科医師でなければなりません。つまり、医師・歯科医師である後継者が、医療法人の出資持分を負担なく所有できるように配慮することが、必要となります。
このようなことから、医療法人の出資持分の移転については、医業後継者が決定している場合には、その後継者を中心に移転をすることが重要です。

(2)移転価額とその留意点

出資持分の移転方法により、移転価額が決定されることになります。生前の移転となる、贈与と譲渡については、「相続税評価上の出資持分の評価」により移転することになります。ただし、贈与の場合には、金銭の移動がありませんが、贈与税の負担が生じます。贈与税は、出資持分の贈与を受けた人が支払うことになっていますので、贈与税の納税資金の準備についても、検討することが必要です。
譲渡による移転については、譲渡金額にかかわる金銭の移動が生じます。つまり、出資持分の取得者から譲渡者に、譲渡代金の支払がなされることになります。
04-12
この場合には、譲渡者に対して譲渡所得税(所得税・住民税合わせて譲渡所得の20%)が課せられます。
したがって、譲渡の場合には、移転を受ける側は譲渡代金の準備、譲渡する側は譲渡所得税の支払が必要となります。

4-11 出資持分の評価(2) 評価の大小

持分の定めのある医療法人、出資額限度法人の出資持分の評価方式について教えてください。

(1)出資持分は、土地等の含み益が生じている場合には、評価が高くなります。
(2)利益蓄積が大きい場合にも、評価が高くなります。

(1)純資産価額方式による出資持分の評価

純資産価額方式による出資持分の評価では、帳簿上の純資産額と、相続税評価上の純資産額を比較して、その含み益について約58%(清算法人税相当額として42%控除)が、出資持分の評価に反映されることになります。
したがって、医療法人が土地を所有していて、時間の経過とともに土地の評価が上昇した場合には、出資持分の評価が上昇する可能性があります。ここでいう土地の相続税評価は、路線価によりなされます(公示価格の80%程度の価格)。
純資産価額方式による評価が高い場合には、その含み益相当額を圧縮していかなければ出資持分の評価金額は下がりません。
たとえば、借入金による医院の建て替え、医業関連不動産の購入等により、出資持分の引き下げを検討することが必要でしょう。

(2)類似業種比準価額方式による出資持分の評価

類似業種比準価額方式による出資持分の評価には、帳簿上の利益、純資産額により、出資持分を評価することになります。
したがって、医療法人の利益が高く、利益蓄積が大きい場合には、出資持分の評価金額が高くなります。
一方、土地等の含み益があっても、類似業種比準価額方式の評価上は、反映されることがありません。
類似業種比準価額方式による評価が高い場合には、利益水準を引き下げ、利益蓄積を抑制していくことにより、出資持分の評価金額が下がってきます。
また、過去の利益蓄積については、理事長退職金等により圧縮することが可能です。

04-11

4-10 出資持分の評価(1) 評価方式

持分の定めの抗医療法人・出資限度額法人の出資持分について教えてください。

(1)出資持分の評価は、出資者の状況と医療法人の規模により決定します。
(2)評価方法は、純資産価額方式と類似業種比準価額方式とがあります。

持分の定めのある医療法人・出資限度額法人の出資持分の評価は次のように考えます。

(1)医療法人規模の決定

医療法人の出資持分の評価は、その規模に応じて、評価方式を決定することになっています。
医療法人規模は、従業員数・従業員数を加昧したところの総資産価額・取引金額により、大会社・中会社・小会社に区分されます。

(2)評価方法の決定

会社規模が決定されると、各々の会社規模に応じた評価方法を決定することになります。
小会社の場合には、純資産価額方式を原則としますが、併用方式の評価金額が低い場合には、その金額によることができます。
中会社の場合には、併用方式によることとなります。併用割合は会社規模に応じて「L割合」(下図参照)により算定することになります。ただし、算式において選択により、類似業種比準価額にかえて、純資産価額をとることができます。
大会社の場合には、類似業種比準価額方式を原則として、純資産価額方式の評価金額が低い場合には、その金額によることができます。
なお、評価する医療法人が、株式保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社、開業前又は休業中の会社などに該当する場合、この評価方式によらず、原則純資産価額方式により評価することになります。

医療法人の規模と評価方式

医療法人規模の判定

規模区分 小会社 中会社 大会社
区分の内容→ 従業員数が100人未満で下のいずれにも該当 従業員数が100人未満で下のいずれかに該当 従業員数が100人以上または下のいずれかに該当
 ↓判定項目
総資産価額および従業員数 4,000万円未満または従業員数が5人以下 4,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く) 10億円以上(従業員数が50人以下の会社を除く)
直前期末以前l年問における取引金額 6,000万円未満 6,000万円以上20億円未満 20億円以上

評価方式

小会社 中会社 大会社
純資産価額方式 (併用方式が低い場合にはその価額) 併用方式 類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)(純資産価額の選択可 類似業種比準価額方式(純資産価額方式が低い場合にはその価額)

注:純資産価額方式 解散した場合の持分評価を想定して評価する方法。時価に近い評価となります。
類似業種比準価額方式同業他社(医療法人など)の平均株価に比準して評価する方法。含み益は直接は表れてきませんが,高収益をあげている場合,評価額がかなり高くなる場合もあります。

L割合

L割合→ 0.6 0.75 0.9
↓判定項目
総資産価額および従業員数 5,000万円以上4億円未満(従業員数が5人以下の会社を除く) 4億円以上7億円未満(従業員数が30人以下の会社を除く) 7億円以上(従業員数が50人以下の会社を除く)
直前期末以前1年間における取引金額 8,000万円以上7億円未満 7億円以上14億円未満 14億円以上20億円未満

*小会社にて併用方式を用いる場合,L割合は常に0.5となります。

4-9 医療法人の出資持分の意昧

医療法人の出資持分の内容、留意点について教えてください。

(1)医療法人の出資持分は社員総会における議決権に影響じません。
(2)出資持分は、利益の蓄積、および不動産の値上がりにより評価が上がります。
(評価方法については4-104-11、移転については4-12をご覧ください)

(1)医療法人の出資持分および基金の内容

持分の定めのある医療法人や出資額限度法人を設立したときに出資した金額が出資持分であり、基金拠出型法人に拠出した金額が基金です。これは、出資または拠出した財産と債務の差額として表される金額です。
出資持分は、出資者ごとの出資口数により、全体の中の持分が決められています。対して、基金は持分の考え方はありません。
一般の会社の場合には、出資持分等が議決をするための手段であると同時に、配当を得る基準となりますが、医療法人の場合には、議決権が出資額または拠出額に応じて異なることはありません。社員総会において、各社員が等しいl票の議決権を行使します。また、配当が禁止されていますから、出資持分または基金を所有していることは、所有権の持分または基金返還請求権を有しているという意昧しかありません。

(2)持分の定めのある医療法人の出資持分の評価

持分の定めのある医療法人の設立時は、出資金額の価値しか有しませんが、その後の医療法人での利益の蓄積や、所有不動産の値上がりなどによって、評価金額が上昇することになります。
特に医療法人の場合には、配当が禁止されていますから、利益が内部蓄積されることにより評価金額が高額になる傾向があります。
さらに、所有不動産の値上がりに対して、評価圧縮のための対策をとる場合にも、医療法人の場合には、医療用以外の資産への投資が禁止されているため、評価圧縮対策をとりにくいという面もあります。したがって、医療法人を運営していくには、この点に対して留意することが必要です。

出資持分の移転

04-09

4-8 医療法人運営上のメリット(3) 退職金

医療法人における理事長退職金について教えてください。

(1)理事長退職金の支給について役員退職金規定の整備が必要です。
(2)退職金支払のための支払原資の確保が必要です。

(1)理事長退職金支給金額の決定

個人事業の場合の事業主に対しての退職金は、所得税法上は認められていません。
医療法人の場合には理事長に対して支払う退職金について、その金額が適正額の範囲で認められています。
適正額の判断は、第一に医療法人の役員退職金規定、第二に対外的な基準によりなされます。
役員退職金規定については、過去の運用の経緯も考慮してあらかじめ作成、整備しておくことが重要です。
対外的な判断基準は、その支払った退職金が過大退職金として税務上認定されないかということがあります。
この場合には、役員退職金規定を整備した上で、次の算式により算定された金額を基準にされるとよいでしょう。

理事長退職金=適正月額報酬X勤続年数X功績倍率

(注) 功績倍率は3倍程度が基準です。

(2)支払原資の確保

理事長退職金は、一時に多額の支出を伴うものですから、その支払原資については、計画的に準備する必要があります。
生命保険の活用による節税プラン
<A生命保険会社の例>
・保険種類:長期平準定期保険
・45歳男性
・100歳満了
・死亡受取人:医療法人
・年払保険料:2,254,300円
・保険金額:1億円
・契約者:医療法人
・実効税率:35%

(単位:千円)

経過年数 年齢 A B C D E F G
支払保険料累計 損金計上額累計 (B×0.35)
節税累計
(A-C)
実質累計
解約返戻金 (E/A)
単純返戻率
(E/D)
実質返戻率
1年 46 2,462 1580 553 1,909 1580 64.10% 77.70%
5年 50 10,312 6.156 2.155 8,157 10,370 84.20% 102.00%
10年 55 24,624 12312 4,309 20,315 21,470 87.10% 105.60%
15年 60 36936 18468 6,464 30,472 32360 87.60% 106.10%
20年 65 49248 24624 8,618 40,630 43270 87.80% 106.40%
25年 70 61,560 30780 10,773 50,787 53,720 87.20% 105.70%
30年 75 73,872 36,936 12,928 60,944 63,460 85.90% 104.10%
35年 80 86,184 49248 17,237 68.947 72,190 83.70% 104.70%
43年 88 105883 83721 29.302 76,581 82,650 78.00% 107.90%
50年 95 123,120 113886 39,860 83,260 82,260 66.80% 98.70%

(平成25年6月現在,圏内生保)

※実質返戻率の最も高い43年目で解約した場合,下記のようになります。
04-08
43年で解約した場合、保険料累計は105,883千円となりますが、29,302千円の節税効果があるため、実際には76,581千円の負担で済み、実質負担を6,069千円上回る82,65ο千円の解約返戻金をうけることとなります。また、実質返戻率が100%を超えている期聞が長いので退職する時期に幅をもたすことができます。

その原資については、医療法人の利益蓄積から支払う場合や、不動産処分により支払う場合等がありますが、現状の医療法人の運営に影響を与えないためには、法人契約による生命保険の活用等により、支払原資を確保しておくことが必要でしょう。

4-7 医療法人運営上のメリット(2) 生命保険

医療法人の設立による個人生命保険の活用を教えてください。

(1)法人契約の生命保険は積立型(資産計上)と掛捨型(損金計上)があります。
(2)役員の生命保険加入と役員退職金制度を設けることにより有用性が増します。

(1)医療法人と生命保険の加入

個人事業の場合には、個人の生命保険については、一定の所得控除があります。
医療法人の場合には、積立型の生命保険については、支払い金額が資産計上され、損金とはなりません。一方、掛捨て型の生命保険については、支払い金額が損金となります。従来個人で加入していた生命保険を見直し、法人契約にすることによって、医療法人の利益の中から保険料を支払い、損金とすることができるわけです。(支払保険料と節税効果の関係については4-8参照)

(2)法人契約生命保険と役員退職金

法人契約で生命保険に加入した場合には、支払保険料については医療法人の支払いになりますが、一方、生命保険の受け取りも医療法人となります。したがって、このままでは生命保険金が個人の財産となりません。そこで、法人契約の場合には、同時に役員退職金規定も整備し、生命保険金の受け取りが生じた場合(死亡保険金等)に、役員退職金として支出するための準備をしておくことが重要です。(退職金の設定方法については4-8参照)
このことにより、医療法人で、受け取った生命保険金を、役員退職金として、個人に支払うことができるわけです。

法人契約と役員退職金をセットで

04-07

4-6 医療法人運営上のメリット(1) 役員報酬

医療法人の役員報酬の設定の方法について教えてください。

(1)同収入でも医療法人の理事長報酬の場合には、給与所得控除の適用があります。
(2)適正理事長報酬の決定が重要です。

(1)理事長報酬と給与所得控除

個人事業の場合には、課税所得がそのまま個人所得税の対象となりますが、医療法人の場合には、一定の給与所得控除後の金額が課税所得となります。
たとえば、所得1,000万円の場合には、個人課税の場合に276万円の所得税、住民税となります。一方、医療法人で所得1000万円となり、その全額を理事長報酬として支払った場合には、1000万円の給与として取扱われますから、その給与から一定の給与所得控除を差し引いた金額が、個人の課税所得となります。この場合には、194万円の所得税・住民税となり、個人事業と比較して約30%程度課税所得が圧縮されることとなります。
このように、医療法人を設立し、所得を理事長報酬に転換することによって、実質手取りを増加させることができます。

(2)適正理事長報酬の決定

適正理事長報酬の決定については、第一に相対的適正金額の決定、第二に個人・医療法人比較による適正金額の決定があります。
相対的適正金額の決定は、同規模の医療法人等に比較して、理事長報酬が適正かという問題です。しかしながら、他の医療法人の理事長給与の資料を、入手することは容易ではありません。したがって実際には、各医療法人が利益をにらみながら理事長報酬を決定することになります。

個人事業と理事長給与(役員報酬)との税額の差

(単位:万円)

所得区分 (1)個人所得税・住民税合計 (2)理事長給与税金 (①・②)金額(減税額)
600 137 85 △52(38%)
800 200 137 △63(31%)
1,000 276 194 △82(29%)
1,200 362 263 △99(27%)
1,400 448 345 △103(23%)
1,600 534 429 △105(20%)
1,800 620 515 △105(17%)
2,000 720 601 △119(17%)
2,200 820 697 △123(15%)
2,400 920 797 △123(13%)

(注1)所得控除は考慮していません。単純に所得区分における所得税・住民税を表示しています。
(注2)(1)は所得区分の数字を事業所得とし、(2)は給与収入として計算しています。

なぜならば、医療法人が設立後に設備投資や借入金返済を行うためには、その原資となる利益を蓄積する必要があるからです。
また、医療法人利益を全額理事長報酬とすることは、給与所得控除によるメリットはありますが、医療法人化による法人税課税の優位性を失うことになりますから、この点からも医療法人利益と理事長報酬の適切な配分が必要となります。

4-5 個人から医療法人への判断基準(3) 相続対策

将来の相続対策も考えた医療法人の設立方法を教えてください。

医療法人の設立後は、役員報酬の設定と設備投資計画が重要です。

(1)医療法人の設立と相続対策

個人事業で医業を継続してL瓦く場合には、医業用資産の含み益の増加と年度利益の蓄積が個人財産となります。
したがって、医療法人の設立に際して、将来の相続対策を考える場合には、第一に医業用資産の移転、第二に年度利益の蓄積の移転が重要です。
医療法人の設立に際して、医業用資産の移転を考える場合には、個人から医療法人に資産を移転する場合の、譲渡所得税を考慮、に入れなければなりません。土地などの購入時点が最近であり、医療法人設立時において、その含み益が発生していないような場合には、移転に伴う譲渡所得税はさほど発生しないことになりますが、購入時から相当の期間経過していて、含み益が生じている場合には、
譲渡所得税が多額となり、移転が難しいことになります。その場合には、医業用資産を個人から法人に移転せず、賃貸により設立することになります。
仮に医業用資産を医療法人に移転できた場合には、移転後の含み益については医療法人に帰属することになりますから、個人所有の場合と比べて相続財産の圧縮につながります。
また、年度利益の蓄積の移転については、個人事業として継続する場合には、年度利益金全てが、個人財産となりますが、医療法人の場合には理事長報酬差し引き後の、年度利益が法人財産になります。したがって、理事長報酬を、個人と医療法人の税金を考慮、した、最適額で設定すれば、効率的に医療法人に蓄積することになります。

個人から医療法人への判断規準

04-05
このことにより、個人財産の蓄積、増加を避けることができます。

(2)医療法人設立時の留意点

医療法人の附帯業務は限られています。医業用資産は法人に移転させることはできますが、医業と関係のない、例えば、賃貸用不動産などを多く持っていた場合には、その資産は医療法人に移転させることはできません。

4-4 個人から医療法人への判断基準(2) 後継者

後継者の点からみた医療法人移行の判断基準を教えてください。

(1)医療法人の理事長は原則医師・歯科医師であることが必要です。
(2)後継者が医師・歯科医師以外の場合には、医療法人の理事として医療法人を運営することができます。

(1)後継者が医師・歯科医師の場合

医師・歯科医師の後継者がいらっしゃる場合には、個人事業でも医療法人でも医業継承については、それほど差異は生じません。
個人事業の場合には、個人所有の医業財産を後継者に引き継ぎ、または賃貸することにより、後継者が個人事業主となります。
また、相続の場合には、個人所有の医業財産を、後継者が相続することにより引き継ぎを行うことになります。
医療法人の場合には、医業財産については、医療法人所有となっていますから、後継者への引き継ぎは、持分のある医療法人については、第一に後継者の社員及び理事就任、第二に出資持分の移転、基金拠出型医療法人については後継者の社員及び理事就任により行います。

(2)後継者が医師・歯科医師以外の場合

医師・歯科医師の後継者がいらっしゃらない場合には、後継者は理事長以外の役員として医療法人の運営にあたり、役員報酬により、収入を得ることになります。また、医療法人の理事長は原則として医師又は歯科医師でなければなりませんが、都道府県知事の認可を受けた場合には、例外的に医師又は歯科医師でない理事の中から理事長を選任することができます。
04-04

(3)後継者がいない場合

後継者がいない場合には、医療法人を解散させるか、第三者に一括譲渡又は他の医療法人と合併することになります。
出資持分を、医療法人の解散により回収する場合には、出資時の金額と解散時の金額との差額に対して、税金が発生することになります。
出資額限度法人の出資持分および基金拠出型法人の基金を解散により回収する場合には、当初の出資額または拠出額を限度として払い戻しがされるため、税金は発生しません。
ただし、残余財産は国や地方公共団体に帰属することとなります。

4-3 個人から医療法人への判断纂準(1) 税務

個人から医療法人ヘ移行する場合の税務上の判断基準を教えてください。

(1)偶人の所得が一定額を超える場合は法人化した方が税務上有利といえます。
(2)医療法人設立後は、院長は医療法人からの理事長報酬を得ることになります。

(1)医療法人設立による個人の税金

個人事業の場合には、収入と経費の差額が個人所得として所得税の対象になります。所得税は、所得が高くなればなるほど税率も高くなるという、超過累進税率となっています。したがって、所得が高い場合には、所得の伸び以上に税金が増加することもあり、手取りがさほど増えない、という結果になります。
医療法人の場合には、医療法人に対して法人税が課せられますが、その法人税は段階比例税率になっています。そのため、一定以上の所得については一定の法人税率によりますから、所得が高い場合には、個人所得税と比較して税金増加が少なくなります。
所得が一定額を超えると法人税の実効税率が個人所得税の実効税率より低くなりますので、医療所得を全て医療法人に帰属させた場合には、個人所得税より医療法人が支払う法人税の方が少なくなります。

(2)理事長報酬の設定

ただし、医療法人から理事長に対して、理事長報酬を支払うことになりますから、理事長報酬差引後の所得で個人所得税と法人税のどちらが有利になるかを比較しなければなりません。
その点を考慮すると、理事長報酬は個人所得税と法人税の実効税率がほぼ同率になるところで設定し、それ以上については医療法人に帰属させるとした場合が有利となります。

個人所得税と法人税との税率比較

04-03
(注)住民税・事業税は考慮しておりません
(注)平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する各事業年度

4-2 医療法人の設立の状況

医療法人設立の状況を教えてください。

・平成24年3月末で約47,825件の医療法人の設立認可がなされています。
・医療法人の増加要因は税務上の要因が影響しています。

(1)医療法人設立の概況

平成24年3月現在、医療法人の認可件数は47,825件となっています。このうち1人医師医療法人の設立は医科が32,150件、歯科が7,797件で総数39,947件と83%を占めています。又、図で示す通り、年々増加しており、医療法人設立が定着してきた状況がわかります。

(2)今後の動向

医療法人の設立については、厚生労働省も積極的な姿勢をしめしているばかりでなく、行政全体が方向性として、医療法人設立に向かっています。
さらに、税務上の問題で考えると、個人の所得税が累進課税方式に対して法人税は段階比例税率で課税されます。したがって課税所得が一定水準を超えますと、あきらかに法人税のほうが有利になります。また役員報酬からは245万円まで給与所得控除も受けられるため重ねて有利になります。平成27年以降は所得税の最高税率が45%に引き上げられることになりましたので、今後は事業所得が高い場合には法人化を検討することが必要になります。

医療法人の推移

04-02

都道府県別医療法人数の状況(平成24年3月31日時点)

摘要 病院 医科 歯科 摘要 病院 医科 歯科 摘要 病院 医科 歯科
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
新潟
富山
530
72
67
161
81
51
106
230
203
115
361
280
588
425
57
73
1389
218
224
500
191
331
593
500
456
546
1416
1096
3162
1818
722
145
517
49
48
72
48
70
91
98
67
99
438
371
1263
622
151
51
2436
339
339
733
320
452
790
828
726
760
2215
1747
5013
2865
930
269
石川
福井
山梨
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
63
59
45
102
138
128
374
106
48
170
296
228
91
79
35
61
287
191
145
499
441
998
1240
438
311
587
2675
1382
305
271
226
228
82
45
27
105
90
133
240
79
45
121
641
284
42
42
65
52
432
295
217
706
669
1259
1854
623
404
878
3612
1894
438
392
326
341
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
合計
155
194
122
79
96
136
162
492
101
152
206
182
104
187
87
7878
634
1004
532
393
336
604
179
1747
247
542
659
388
373
674
307
32150
130
161
62
106
73
147
39
290
51
104
125
60
74
163
64
7797
919
1359
716
578
505
887
380
2529
399
798
990
630
551
1024
458
47825

4-1 医療法人制度

現在の医療法人制度はどのようになっているのでしょうか。

通常設立される法人に限れば、設立した時期や定款により、医療法人の形態は「持分の定めのある社団医療法人」、「出資額限度法人」、および「基金拠出型法人」に分類されます。

(1)医療法改正

原則として医療法人は配当禁止であり、また営利事業を行うことができません。しかし、社員退社時に剰余金部分を含めた出資持分の払出しを行うことが出来ますし(実質的配当)、MS法人を利用した営利目的化が見受けられていました。また、公から民への公共医療の移行の要請があったため、医療法が改正され(平成19年4月1日施行)、医療法人制度も大きく変わりました。

(2)持分の定めのある医療法人

持分の定めのある医療法人とは、平成19年医療法施行前に設立された法人で通常設立された形態です。この形態は出資持分に応じて法人の持分を出資者である社員が保有しています。
この形態の医療法人は、医療法改正により設立することが出来なくなりました。したがって、この法人形態で医療法人運営を行う場合には、現存する当該形態の法人格を購入してくる方法をとる乙ととなります。

(3)出資額限度法人

出資額限度法人とは、(2)の持分の定めのある医療法人のうち、退社や死亡による出資金の払戻をその出資額を限度とする旨定款で定めている医療法人のことをいいます。全ての社員に出資金を払い戻した後に残る残余財産については、国等ヘ帰属させることとなります。
この形態の医療法人も新医療法施行後は設立が出来なくなりましたので、持分の定めのある社団医療法人同様、この形態を望まれる場合には現存する当該形態の法人格を購入する方法しかありません。

(4)基金拠出型法人

平成19年4月1日の新医療法施行後に通常設立される医療法人の形態です。この医療法人は持分の定めがなく、また、基金の払い戻しも拠出された基金を限度としてしか行われません。解散時全ての拠出者に基金を払い戻した後に残る残余財産については、国等ヘ帰属させることとなります。
04-01

平成19年4月以降設立できる医療法人は、新法の医療法人のみ
(財団医療法人又は社団医療法人であって持ち分の定めのないもの)
※経過措置型医療法人(旧法の医療法人)は、平成19年4月以降設立不可

(出典:ワタキューメデイカルニュースNo.174一部加工)