コラム5

医療法人制度

厚生労働省は、平成19年医療法改正において、「公益性の高い医療法人」という新しい立場を創設し(社会医療法人)、新設の医療法人はすべて「持分なし医療法人」しか設立できないこととなりました。医療法人は医療法第54条に剰余金の配当をしてはならないと規定されており、これを基に営利を目的としない非営利法人とされています。ところが、医療法人の内部に財産を蓄積して退社時にまとめて剰余金を払い戻すことで、事実上の配当を行っているのではないか、これでは非営利性が徹底されていないという長年にわたる議論に決着をつけました。
出資持分のない医療法人はほとんどが基金拠出型医療法人と呼ばれる医療法人です。基金拠出型医療法人の基金とは、医療法人の財産として拠出されるものであり、法人を運営していくための原資となるものです。具体的には金銭のほか、土地や建物、診療所等の医療法人を設立するために拠出したものです。このような基金制度は「剰余金の分配を目的としない性格を維持しながら、活動の原資となる資金を調達し、財産基礎の維持を図るための制度」といわれています。基金拠出型医療法人は、設立したときの拠出額部分しか拠出者に返還されません。さらには、拠出金は債権のように利息のつくようなものではなく、金銭で拠出した場合についても、金銭以外の財産で拠出した場合でも、拠出時の価額で返還されることになります。
経過措置医療法人は現在、全医療法人のうち実に90%以上を占めています。そして、この形態の医療法人は当分の間財産権を持ったまま存続することになります。そして、経遇措置法人は現状のまま持分ありの医療法人でいくのか、持分なし医療法人に移行するかは法人の自主性に任されており、強制的な移行は求められないこととされていますから、当分の聞は相当長期間となるか文は無期限になると解釈されます。

5-5 医療法人設立の手続き

医療法人の設立の手続きについて教えてください。

(1)医療法人の設立には都道府県の認可が必要です。
(2)通常の会社設立に比較して設立に時間を要します。

(1)医療法人の設立

一般の事業の場合には、事業を開始しである程度の規模になると、事業形態を会社形態にします。
この点においては、医業であっても同様のことがいえます。事業の規模拡大に応じて、事業の内容を明確にし、家計と事業の区別を図るためには、法人化は欠かせないことだからです。しかし、医業の場合には医療法の規制により、一般事業者が法人化するよりも、難しい状況がありました。そこで、制度的にも医療法人の設立がしやすくなるよう、昭和60年に医療法が改正されました。
また、税金の面でも、個人と法人の税制改正が一巡し、現行制度上で考えると、法人化することによる不利はありません。
今後の医療行政を考えてみても、医療法人化が促進される方向にありますから、積極的に医療法人を検討していくことが重要となります。

(2)設立手続きの概要

医療法人の設立に際しては、都道府県が申請窓口となっています。事前相談から設立認可まで、この窓口を通じて手続きをしていくことになります。
また、申請にあたっては、設立申請手続き書の作成が必要になりますから、資料を整備したうえで、設立手続きを代行する専門家(税理士・会計士・医業コンサルタントなど)に相談することが必要でしょう。
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5-4 世代交替のすすめ方

医業における世代交替について教えてください。

(1)世代交替は、医業の引き継ぎと医業財産の引き継ぎが必要です。
(2)医療法人の場合には、医療法人出資持分の移転も必要です。

(1)個人事業の場合の世代交替

個人事業の場合には、後継者の決定を前提として、事業主の交替と医業財産の承継により世代交替がなされます。
事業主の交替とは、具体的には所得税の申告上、後継者が主となり申告をする形態に、変更するということです。
医業財産の承継については、贈与、譲渡等により、後継者に移転する方法もありますが、税負担、資金調達等で困難である場合には、賃貸または共同利用の形態をとることになります。
この医業財産の承継については、その他の財産も含めた相続対策のなかで、進めることが重要です。

(2)医療法人の場合の世代交替

基金拠出型医療法人の場合には、医療法人の代表者である理事長の交替が世代交替となります。
持分の定めのある医療法人は、理事長の交替に加え出資持分の移転ができれば、実質的な世代交替ができることになります。
ただし、医療法人の出資持分についての評価額が、高額である場合には、移転が困難な場合もありますから、その場合には、医療法人の出資持分について、評価を引き下げる検討をしたうえで、移転対策を検討することになります。
理事長を退任後は、理事として医療法人にとどまることは可能ですので、あわせて検討されるとよいでしょう。

世代交替の方法によって違う相続税

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5-3 タックスプランニング(2) 財産

財産に対してのタックスプランニングについて教えてください。

(1)資産蓄積のバランスを考えてください。
(2)相続税の対象になる資産を把握してください。

(1)開業時以降の資産蓄積のパターン

開業からの数年間は、税引後利益による金融資産の蓄積が中心となります。したがって、できるだけ税引後手取りが大きくなるようなタックスプランを心掛けることが重要です。
すなわち、収入が一定のもとで手取りを増加させるためには、税金部分を少なくしていくことになりますが、この点から個人事業から医療法人への転換があります。

(2)医療法人設立後の資産蓄積のパターン

個人事業から医療法人に転換したあとも、資産蓄積のパタンに変化はありません。
ただし、医業関係利益が、一部、医療法人にも蓄積されることに、違いがあります。

(3)相続タックスプランニング

医業の資産蓄積のパタンに沿った、相続タックスプランを考える必要があります。
≪1≫持分の定めのある医療法人の場合医療法人の出資持分については、後継者への移転を中心に考えていきます。医療法人の出資持分が後継者にほぼ移っていることを前提とすると、個人所有の不動産については医業用とそれ以外の資産に区別し、医業用資産については医療法人への移転を中心に考えます。それ以外の不動産については、賃貸不動産の運用を中心に、全体の相続財産の圧縮を検討します。
≪2≫出資額限度法人および基金拠出型法人の場合
≪1≫とは逆に、医療法人への資金の移転は慎重に行う必要があります。出資額限度法人も基金拠出型法人も、当初の出資額または基金分しか払い戻しがされないためです。
特に出資額限度法人の場合、医療法人の所有権の持分としての意昧があるため相続に際して高い評価額となりますが、退社して払い戻しを受ける場合、払い戻されるのは当初の出資額のみで、かつ、ほとんどのケスで残る社員への贈与が発生してしまいます。
また、せっかく蓄積した資金等も、法人が解散するなどの際には固または地方公共機関等の帰属となってしまいます。

医業財産の蓄積と法人化の概念図

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持分の定めのある医療法人においては一定の財産蓄積後は法人に資産,利益の蓄積を移し,個人資産の増加を抑えることが可能です。

5-2 タックスプランニング(1) 収入

開業から医業運営にいたるタックスプランニングを教えてください。

開業年数・収入・所得等の状況によりタックスプランニングを教えてください。

(1)開業から3年目までのタックスプラン

開業から3年目までは、個人事業での運営が一般的ですから、所得税の思典を十分に活用することがタックスプランのポイントです。開業年は、通常課税計算上は赤字になりますから、税金の心配はありませんが、初年度の赤字を翌年度に繰り越しできるか否かが重要となります。
この赤字の繰り越しについては、個人ですと、青色申告を選択すると、3年の繰り越しが認められます。
したがって、開業時から青色申告を選択しておくことが重要です。このことにより、初年度の赤字を3年間の所得で吸収できることになります。

(2)3年目以降の医療法人設立

開業後3年、または初年度の赤字を吸収した時点で、個人事業から医療法人への転換を検討するべきでしょう。
個人事業の場合には、所得税が累進課税であるため、課税所得が高くなると税率も高くなり、結果的に税負担が大きくなります。したがって、3年目以降で、個人所得が1,800万円を超えた場合には、医療法人設立の検討を進めるべきでしょう。
また医療所得には、社会保険診療収入に対して一定の経費率を乗じて求めた額を必要経費として計上できる課税の特例制度があります。この特例を利用できるのは平成25年までは社会保険診療収入が5,000万円以下、平成26年からは総収入が7,000万円以下の個人医院ですので、収入がどの程度になるのかも医療法人化を考える1つのポイントとなります。医療法人設立後は、理事長報酬と、医療法人利益のバランスを検討していくことが重要となります。
さらに、医療法人契約による、理事生命保険の加入や、理事退職金制度の整備を通じて、医療法人の制度上のメリットをいかしていくことになります。

開業からのタックスプランニングのモデル

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※所得と税率の関係は4-3のグラフを参照して下さい。

5-1 課税所得と資金繰り

利益が出ているのに、手許に現金がないのはなぜでしょうか。

(1)課税所得(利益)計算と資金計算にはずれがあります。
(2)「勘定あって銭足らず」の状況にならないように注意してください。

(1)課税所得計算と資金計算

全ての収入と全ての支出が、現金で取り引きされていれば、課税所得計算と資金計算は一致します。しかし、実際には利益は出ていても手許に現金がないという状態が、しばしばあります。
これは、課税所得計算と資金計算のしくみが、異なることによります。
たとえば、社会保険医療収入についてみてみると、本人負担としての窓口収入は毎日の現金収入となりますが、残りの医療収入は、請求後2ヵ月たたなければ現金となりません。
特に開業時においては、この状況が2ヵ月続きますから、資金計算を十分に検討して運転資金の準備をすることが必要です。

(2)借入金収入と返済

借入金は、将来返済しなければならない資金ですが、借入時には資金の増加をもたらします。これは医業収入とは異なり、収入はあっても利益に計上されるものではありません。
一方、借入金の返済については、金利部分は必要経費になりますが、元金の返済については必要経費にはなりません。この点も課税所得計算と資金計算のずれが生じる点です。

(3)資産の取得と減価償却費

土地を購入した場合には、財産の取得ですから資金の支出はありますが、その取得金額が必要経費になるものではありません。

課税所得と資金計算にはギャップがあります
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建物、設備等の購入についても、同様に必要経費にはなりません。ただし建物・設備等の場合は土地とは異なり、時間の経過に応じて価値が減少していくため、減価償却という手続により毎年分割して必要経費になっていきます。このことにより、課税所得は減少するのですが、減価償却費の計上時には、資金支出はありません。